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こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

「路上駐車」

【1】
神戸に着いて、高速を降りて考えた。
このまま、夜の時間帯に寮に入るのも迷惑だろう。一晩車中泊して、明日入寮しようと考えた。
路上駐車できるような、静かな場所を探して海の近くまで行ってみた。
広い道路で、路側帯も広く、街路灯も明るい場所を見つけた。今夜はここで泊まろう。
車中泊 は、北海道一周をしたときにも何度かしたことがある、抵抗感はなかった。
ただ、駐車禁止場所だろうな。標識は見えなかったけど。ま、人が乗ってるんだし、もし見つかったとしても、いきなり駐車違反のキップは切らないだろう。移動すればいいだけのことだ。
まだ8時ごろだったので、眠くもならずカーラジオを聞いていた。静かでまったりしたいい時間帯だった。それが、神戸の第一夜だったが、さびしくはなかった。

【2】
これからの活動を考えながら、期待と不安を感じながら、車中でまったりしていると、後方にパトカーが見えた。
驚きも緊張もなかった。通り過ぎるだろうと考えていた。
パトカーは3台、いきなり2台は、俺の車の前方に泊まり、後方に1台止まった。逃げるつもりはなかったが、車を出せないほどきっちり止められた。
パトカーからは、総勢10人ほどの警官がでてきた。笑っていたりして、気楽な感じはした。
しかし、いきなりパトカー3台に囲まれて、10人の警察官を見たら、「俺指名手配されてたのか?」と思えてきた。もちろん、身に覚えがないけど。
しかし、実際には、路上駐車の駐車違反だけだろう。どうしても、キップ切りたいならやらせようか。駐車料金だと思えばいい。

【3】
どうせ、「免許証拝見」とくるだろうから、自分でさっさと財布から抜いて用意した。
中年の警察官が寄ってきて
「お、なにも言ってないのに免許証出すなんて、なにかやましいことでもあるのか」
「ないですよ!どうせ、免許証出せって言われるんでしょう」
「そうか、準備がいいんだな」
中年警察官も、きびしい表情ではなく、周りの警察官たちもリラックスしていた。
「ところで、こんなに荷物積んで、泥棒かと思われるぞ」
「震災関連工事で、神戸に来たんです。そりゃ荷物はありますよ」
「そうか、物いっぱい持ってると泥棒に見られるからな」
見られるからなって、自分で言ってるのかよ。顔が冗談ぽかったので、俺もリラックスして対応できたけど。

【4】
俺は、その頃頭をスキンヘッドにしていた。
「まさか、オウム真理教だと思ってないでしょうね」
不安になったので、先に言った。地下鉄サリン事件の年だったので、変な疑いをかけられたらいやだったから、こちらから探ってみた。
後ろのほうで「オウムか」などと言って笑っている。俺が冗談で言ったということになったらしい。
中年警官は、俺をキッと見て
「だいじょうぶだ。顔見れば悪い奴かどうかわかるんだから」と言った。
たしかに、ベテラン警官は、顔や声で人を判断できると聞いていた。まさか、俺の顔は悪人のものではないだろう。前科もないのだから。
そういえば、無線で俺の前科前歴を照会した様子もない。全面的に、信用していてくれているということか。

【5】
所は神戸、時は震災後半年、荷物を積んだ車が関東から来たということは、復興工事のために来てくれたという感覚があったのだろうか。
警察官たちも、震災後はたいへんだったろう。俺に対する対応も普通の警察官のものではなかったように感じた。
今日は、交番で会合でもあるのだろうか。パトカー3台と10人の警察官は多すぎる。あるいは、慰労会かな。
中年警官は、真剣な表情で言った。
「車を止めて置くのは悪いとは言わんけど、ここらへんは、悪い奴らが集まったりするところだから、なにかあったら、この先に交番があるから、すぐに来い。車を置いて走ってでもいいから来るんだぞ。必ず、助けてやるから」
「はい、わかりました」
警察官は、いつの時代も心強い存在だ。

【6】
「神戸のおまわりさん、かっこいいなぁ」
「そうか。ほんとにそう思うか」
「思うね。ねぇ、敬礼するとこ見せて」
「敬礼が見たいか。そうか、よし、見せてやろう」
中年警官だけ、敬礼しようとしたが、若い警官たちも、横一列に並びだした。
「よし。みんなでやろう…敬礼!」
10人の警察官の敬礼は、かっこよかった。
俺も、にっこり笑顔で敬礼した。
(終)


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